研究概要 |
被験者16名より安静唾液5mlを採取し,以下の定量を行った。1.超音波による攪拌後の唾液の吸光度(OD at 500nm),2.唾液の不溶物中の非水溶性グルカン(IG)含有量,3.IG除去後の唾液の吸光度(OD at 500nm)。また,唾液にスクロースを終濃2%で添加し,37℃で静置培養し,60,120,180分後に前記1〜3の測定を行うと共に唾液pHの測定を行った。さらに唾液中のミュータンスレンサ球菌を半定量的に評価するため,唾液資料の一部をミューカウント【encircled r】に充てた。一方,チェアサイドではその時点の歯垢付着量(当初付着量)を評価し,歯垢細菌の酸産生能評価としてカリオスタット【encircled r】による検査を行った後PMTCにより,歯垢を可及的に除去した。この実験に先立って行った歯垢付着量評価法の妥当性の検討で視診として診査者間のκ値,分布の正規性などがもっとも良好であった我々が考案したPHP変法を用いた。被験者は2日間歯口清掃を停止した後,再び歯垢付着量(新規付着量)の評価を受けた。その結果,1〜3の測定値および唾液pH低下量ならびにミューカウントスコアには高い相関が認められた。一方,それら測定値と歯垢付着程度の間には当初付着量,新規付着量とも負の相関が認められ,特に新規付着量は培養後の濁度,IG合成量などと有意な負の関連が認められた。また,カリオスタットの結果は歯垢付着程度と正の相関関係にあり,特に当初付着量との間には有意な関連が認められた。これら結果から,個人の安静唾液の濁度は唾液中のIG合成活性,酸発酵能を反映しているが,歯垢の付着程度の現状ならびに予測とは直接には結びつかないことが示された。しかし,本実験において,唾液と歯垢の微生物活性の動向が逆相関を呈したことにより,その原因に対するさらなる研究が,当初目的とした歯垢付着程度を予測するリスク評価法の開発に必要であると考えられた。
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