唇顎口蓋裂児の歯槽、硬軟口蓋の破裂を被覆するHotz型人工口蓋床は、破裂部に陥入する舌の位置を正し、吸啜や嚥下機能を回復し、正常な顎発育を促すことを目的としており、唇顎口蓋裂患者にみられるこれら障害に対し有効な治療装置と言われている。今回、このHotz型人工口蓋床(以下Hotz床)を両側性唇顎口蓋裂児(以下CLP児)に使用し、超音波診断装置を用いて哺乳時の舌運動を詳細に分析し、その有効性を客観的に評価することを試みた。 対象は本学唇顎口蓋裂特殊診療班で定期管理し、Hotz床を装着している口唇形成手術前の生後3〜5か月のCLP児7名と、顎口腔系に異常を認めない生後2か月の乳児(以下健常児)1名である。全ての保護者に対し、実験内容と目的を説明、合意を得た上で観察を行った。 方法は、対象児の母親が乳児を座位で抱き、授乳しているところを観察した(CLP児はHotz床を使用、不使用両方を観察した)。観察には超音波断層装置のB/Mモードを使用し、チルトプローブ(セクタ型)を用い、観察者が手で顎角部に保持した。Mカーソルの位置は舌背正中部3部位に設定し、各部位についての吸啜サイクル時間と舌波状運動の波形の深度を計測した。 その結果、吸啜サイクル時間は健常児で約470msecであり、CLP児でHotz床使用の場合は約800-900msecとかなり延長し、不使用の場合は約400-600msecと健常児とほぼ同様であった。また舌波状運動の波形の深度は健常児に比較し、CLP児でHotz床の使用、不使用にかかわらず著しい増大が認められた。これらより一部ではあるがCLP児の異常嚥下像が明らかになった。またCLP児のHotz床の使用は、哺乳時舌運動の左右対称性の獲得や、嚥下時舌不規則動作の消失には効果があり、Hotz床の有効性も確認された。
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