成長期のニホンザル上顎骨にチタンマイクロスクリューのインプラントを植立し、直接そのインプラントを介して前方牽引力を咬合平面に平行に6カ月間作用させ、その効果を計測学的、組織学的に検討した。 1.側貌頭部X線規格写真における計測学的検討 実験群および同時期のインプラントのみを植立した前方牽引装置未装着の対照群の実験前後に採得された側貌頭部X線規格写真所見において、実験群では対照群に比べて実験期間中におけるインプラント、上顎骨全体の前方移動距離は大きく、また上顎骨自体の前後的大きさは実験群と対照群で差がほとんど認められなかった。 2.未脱灰標本による頬骨上顎縫合部、スクリュー周囲の骨改造変化の組織学的検討 全ての実験動物において、実験終了時の肉眼的、一般X線写真所見では、インプラント植立部の軟組織に著しい炎症状態、インプラント体の動揺、スクリュー周囲の骨吸収像などは認められなかった。実験群では対照群に比べて、特に頬骨上顎縫合部におけるテトラサイクリンの骨ラベリング線が幅広く観察され、骨添加の多い所見がみられた。スクリュー周囲の骨におけるコンタクトマイクロラジオグラム所見では、実験群対照群ともスクリュー界面部に接した骨石灰化像が広範囲にわたってみられたが、偏光顕微鏡による骨組織内の線維およびテトラサイクリンの骨ラベリング線の観察では、実験群において対照群よりも骨組織内の線維の複雑な排列、ラベリング線の散在がみられ骨改造変化が部分的に多数生じている所見が観察された。 以上より、本実験におけるチタンマイクロスクリューのインプラントを介した前方牽引力は主に上顎骨の縫合部に作用して上顎骨の前方成長を促進し、負荷時のインプラントは骨組織内で安定していると考えられた。
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