研究概要 |
生体材料の進歩に伴い、インプラント自体が直接骨と結合するチタン製のインプラントを上記の症例に対し固定源として応用する臨床的並びに基礎的報告がみられ、インプラントを固定源とした矯正治療の有効性が示されている。しかし歯を移動させた後、チタン製のインプラントは除去されることになるが、それに伴い歯槽骨や顎骨に骨の欠損が生じる。一方、生体に対し為害作用がないと言われてきたチタン系インプラントやプレートの長期使用に伴う生体組織への溶出が報告されている。これらのことから矯正歯科領域ではチタンに代わり生体吸収性で、組織に為害作用がなく、適度な強度を持ち、一定治療期間固定源として利用できる新しいインプラント材の開発が重要である。 本研究では、加水分解し生体に吸収され、組織に対して為害作用がないと言われているポリ乳酸(分子量:20,000〜100,000)と無機物であるハイドロキシアパタイト(HAP)、フルオロアパタイト(FAP)との新しい生体吸収性コンポジット型インプラント材を作製し、合成されたインプラント材の組織親和性や、生体吸収性また為害作用について光顕的、免疫組織学的ならびに電顕的に検索を行う。さらに本インプラントを応用し、歯の移動の固定源としての可能性を理工学的、病理組織学的に検討し、本年は次の結果を得た。 1. ポリ乳酸(分子量:60,000)とリパーゼを混合し、直径4mm、厚さ1mmのディスクを作製し、ラット背部皮下に埋入し組織反応を検索した。 その結果、周囲組織の炎症性反応などの所見は認められなかった。 2. ポリ乳酸(分子量:60,000)1xlmmの円柱状ブロックを形成し、頸骨内に埋入し、その吸収性について組織学的に検索した。術後1カ月について検討したところ、周囲骨組織の為害作用は認められなかったが、ブロックがまだ残存しており吸収性については分子量を調整する必要があると考えられた。
|