研究概要 |
芳香族アニリド類の二級アミド結合は一般にトランス型をとるのに対して、アミド基窒素原子上にメチル基を導入して得られる三級アミド結合はシス型を優先する。この立体特性は芳香族ウレアでも一般的に起こり、例えば、N,N'-dimethyl-N,N'-diphenylureaは2つの芳香環が向かい合った立体構造をとる。本研究では、まずこの立体特性の一般化を追求し、ウレア基のカルボニル基のかわりにイミノ基をもつ芳香族グアニジン類の立体構造を詳細に解析した。その結果、芳香族グアニジン類もN,N'-dimethyl化により、芳香環が向かい合った結晶構造をとることが明らかとなった。このシス型構造は各種有機溶媒中および水中においても観測される。 これらシス型を優先するN,N'-dimethylurea基またはN,N'-dimethylguanidino基を用いて複数の芳香環を連結すれば芳香族多層分子の構築が可能であると考え、芳香族テトラウレアおよび芳香族テトラグアニジンの合成を行った。これらの分子(meta体およびpara体の計4種)はいずれも結晶中で多層構造を有していた。特に、meta-ウレア誘導体は末端フェニル基が分子間でもサンドイッチ構造を有し、層状の芳香族芳香族相互作用が認められた。化合物4種のうち、meta体は軸不斉を有し、分子内のすべての軸不斉が同一の螺旋構造を示した。しかし、単位格子中には両エナンチオマーが1:1で存在し、ラセミ結晶として得られ、結晶化による分離はできなかった。 芳香族多層グアニジン体は水溶性を有し、有機溶媒中ばかりでなく、水中においても結晶構造と類似の層状構造を持つ。この化合物はDNAに対して強い親和性を持ち、各種スペクトルの解析からマイナーグループに結合していると考えられ、既存のマイナーグループ結合性分子とは全く構造の異なる化合物として興味深い。
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