PKCの活性化には、細胞膜中のホスファチジル-L-セリン(L-PS)と内在性アクティベーターであるジアシルグリセロール、あるいはホルボールエステルとの結合による膜上でのPKCのコンフォメージョン変化が必要とされている。そこで、PKCのL-PS結合部位とホルボールエステル結合部血を、ハイブリッド分子で塞げば、膜の中のこれらの分子と結合できず、活性化に必要な膜依存のコンフォメーション変化をおこせない不活性な複合体を形成するのではないかと考え、PEPSを合成した。この分子のPKC阻害活性を調べたところ、PMAによるPKCの活性化を約60%阻害した。PEPSは、PKCレギュレートリードメインに特異的に作用し阻害活性を持つ合理的に設計された初めての化合物であり、この阻害剤デザインのコンセプトはPKC選択的な阻害剤の開発において有用であると思われる。さらに阻害活性の向上を目的として、リンカー部の親水性を向上させた化合物を設計し、リンカー部の合成を行った。 またホルボールエステルの13位アセトキシル基がPKCと相互作用をしているとの考えをもとに、PKCの光アフィニティーラベリングを行うことを計画した。ホルボール13位に光反応性基をもつプローブを用いてPKCの光アフィニティーラベリングを行ったところ、PKCとの間に特異的なクロスリンクが形成されることを明らかにした。また、同時にリン脂質膜成分であるホスファチジルセリシとの間にも特異的なクロスリンクが形成されることも明らかにした。本結果はホルボールエステル、PKC、およびホスファチジルセリンの三者が主に疎水的相互作用を通じてホルボールエステル13位アシル基周辺で相互作用をしていることを示す興味深い結果である。
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