研究概要 |
細胞に紫外線(200-300nm)を照射すると、核酸のポリヌクレオチド鎖中で隣接する2つのピリミジン(チミジンまたはウラシル、シトシン)の間で光[2+2]環化反応が進行し、cis-syn配置のシクロブタン型光二量体(T[c,s]T)が主成績体として生成することが知られている。このような変異はDNA複製の際の欠失や付加の原因となり、細胞死や突然変異を誘発する。シクロブタン環を開裂させて修復する酵素であるDNAフォトリアーゼは、人間の体内に存在するという証拠が得られていないので、核酸の光損傷を修復する人工化合物は、新薬のリード化合物として大いに期待される。 大環状テトラアミン-亜鉛(II)錯体は中性水溶液中でチミジンを選択的に認識して、イミド窒素アニオン-亜鉛配位結合に基づく安定な複合体を生成する。そこで平成10年度は、大環状テトラアミン-亜鉛錯体の、チミジリル(3'-5')チミジン(d(TpT))の光[2+2]環化反応におよぼす影響を検討した。紫外線の照射下では、d(TpT)とT[c,s]Tとの間で平衡が生ずる。2つの亜鉛錯体を架橋した複核錯体は、d(TpT)とより安定な複合体を生成してd(TpT)の光環化反応を阻害するのと同時に、この平衡をd(TpT)へ著しく片寄らせることが判った。さらに、亜鉛錯体はT[c,s]Tの光開裂反応を加速することが判明したので、これに光増感ユニットを導入すれば光開裂反応がさらに効率良く進行することが示唆された。 平成10年度は光増感ユニットとしてインドールを導入した大環状ポリアミン-亜鉛錯体の合成を試みたが、酸性下で非常に不安定であることが判った。現在、フラビン基およびアントラキノン基の導入を検討している。
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