アラメシチンは生体膜に取り付き、膜に電位差が加わると数分子が会合したチャネルを形成する抗生ペプチドである。チャネルの開状態モデル-Barrel Stave Model-は広く受け入られている。しかし、このペプチドがチャネル形成前(閉状態)に膜のどの部分(深さ方向)にどのような構造をとって取り付いているのか、また、どのようなメカニズムで膜を貫通するようになるのかという問題は未だ解決されていない。この問題の解明に、「アラメシチンと脂質との相互作用」という新しい視点に立ち、昨年度から、主に蛍光性脂質を導入したリポソームを用いて取り組んできた。今年度は、液晶相での脂質の頭部及び鎖部の運動性が、アラメシチンにより修飾される様子の詳細な検討を試みた。得られた知見をまとめると以下のようになる。 1.脂質運動性の修飾はあるアラメシチン濃度を境に急峻になる。アラメシチンのcooperativityが反映していると考えられる。アラメシチンの侵入が脂質の相構造に大きな擾乱となっていることがわかる。 2.脂質組成によって脂質の頭部及び鎖部の運動が異なる修飾を受ける。これは、アラメシチンの存在位置がアラメシチン濃度とともに変化していることを示している。 3.脂質運動性の修飾は、微小量のアラメシチン濃度(脂質の3/100程度)で見られる。したがって、アラメシチンは近傍の脂質分子とだけ相互作用するわけではなく、「脂質層と相互作用する」と言えるほど、遠くの脂質分子にまで影響を及ぼすことを示している。 4.本研究により、アラメシチンにとって脂質相が単なる"場"ではなく、アラメシチンによる脂質相側の変化が、さらにアラメシチンの存在様式の変化を誘発するという現象が示唆された。したがって、アラメシチンのチャネル形成過程は脂質相も含めた系として捕える必要がある。
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