不斉認識能を有する電子移動メディエーターとして、強い酸化力を有するニトロキシル化合物の分子内にキラル残基を導入したデカヒドロキノリン型、カンファー型、スピロ環型キラルニトロキシル化合物を合成し、ラセミの二級アルコール類およびアミン類に対する不斉認識能を検討した。その結果、基質として光学活性な二級アルコールであるR-およびS-1フェニルエタノールを用いてエナンチオ選択的酸化能を調査したところ、デカヒドロキノリン型は全くエナンチオ選択性を示さず、カンファー型はわずかであるが、エナンチオ選択性を示した。一方、スピロ環型は分子内の不斉炭素の絶対配置の違いにより、R-体あるいはS-体と選択的に反応した。また、このスピロ環型キラルニトロキシル化合物は光学活性なアミン類に対しても同様に高いエナンチオ選択性を示した。 次に、この電子移動メディエーターに金原子と強く結合することが可能なように、分子内に硫黄元素を含むスピロ環型キラルニトロキシル化合物を合成し、金電極表面に自己組織化単分子膜を形成させた。このキラルニトロキシル化合物修飾金電極は光学活性な二級アルコール類およびアミン類に対しても同様に高いエナンチオ選択性を示すとともに、高速液体クロマトグラフィーの電気化学検出器の作用電極部分に組み込むことが可能であり、薬物モニタリングシステムに応用できることが示唆された。 また、外郭にニトロキシルラジカル基を有するニトロキシルラジカルデンドリマーを合成し、電極反応挙動をサイクリックボルタンメトリーより検討したところ、分子の大きさや内殻の構造が電気化学的持性に影響を与えないことが分かった。アルコール類の電解触媒酸化反応においては、外郭のニトロキシルラジカル基が増加するにつれ反応速度が加速した。このことから、メディエーターを単分子で電極上に固定化させるよりも、デンドリマーなどのような高分子にメディエーターを固定化し集合体化することにより、高感度化がはかられることが示唆された。
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