生理的条件下、栄養物質は腸管上皮の細胞膜を介して効率よく吸収されるが、それ以外の水溶性物質や異物などは細胞同士を密に接着しているTight Junction(TJ)によって血液中への移行が著しく制限されていることが知られている。つまり腸管粘膜は異物に対しての透過バリアー能を有している。一方、病態時にはTJのバリアー能低下が予想され、一般にはそのバリアー能の低下をFITCでラベルされた分子量4000のdextran(FD-4)の吸収方向への透過性亢進で評価している。本研究の平成10年度の実績として、ヒト結腸由来Caco-2単層膜を用いて以下のことを明らかにした。(1)生理的条件下、FD-4の分泌(排泄)方向への輸送はTJ経由の拡散ではなく、FD-4のdextran-polysaccharide部分を認識したtranscytosis機構に基づくことを種々の検討により証明した。この結果はこれまでの常識を覆すものであり、速報として発表した(裏面参照)。(2)Nitric Oxide(NO)のドナーとして選択した低濃度のsodium nitroprusside(SNP)を基底膜側に添加するとFD-4のtranscytosisが顕著に抑制された。(3)Na_2[Fe(CN)_5NO]・2H_2Oの構造を持つSNPはNOドナーであると同時にCNも保有していることから、SNP効果の本質を調査するためにpotassium ferricyanide(K_3[Fe(CN)_6])を基底膜側に添加した。その結果、transcytosis]は[有意に抑制された。つまりこの輸送系の阻害はNOよりもむしろCNによる代謝エネルギーの阻害に起因していると考察した。(4)次にFD.4の吸収方向の透過(transport)に対するSNPの影響を調査した。高濃度のSNPを用いるとFD.4のtransportは顕著に増大した。これはTJバリアー能の低下に起因したFD-4の拡散の増大によるものであった。(5)SNPの添加部位の影響を調査したところ、基底膜側の方が頂側膜側よりも感受性が大きかった。以上、SNPは低濃度ではdextran polysaccharideのtranscytosis(transcellular route)を抑制し、高濃度ではtransport(paIracellular route)を促進することを明らかにした(投稿中)。
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