研究概要 |
ブレオマイシン(Bm)は、扁平上皮癌・精巣癌などに用いられる重要な抗癌剤であるが、長期投与により肺線維症と呼ばれる重篤な副作用を引き起こし易い。本研究では、肺正常繊維芽細胞株WI-38を用い、Bm投与時に引き起こされる遺伝子発現の変化をDifferential Display(DD)法により解析し、肺線維症の分子メカニズムの解明を目的とした。 【方法】Bm投与・非投与のWI-38細胞からtotal RNAを抽出し、DD法を用いてBmにより誘導される遺伝子を検出した。さらに、半定量RT-PCRにより、誘導される遺伝子の発現状況を経時的に調べた。 【結果】DD法の結果、Bm投与により誘導される遺伝子が多数見い出された(数十種)。それら遺伝子について、DNA塩基配列を決定し、ホモロジー解析を行ったところ、p21,proliferating cell nuclear antigen(PCNA)など、細胞周期に関連する遺伝子であることが判明した。これらの遺伝子およびその関連遺伝子(p53,ki-67 antigenなど)について、半定量のRT-RCRを用いてBm投与後の経時的な発現を調べたところ、p21およびPCNAはその発現が上昇し、ki-67 antigenは減少していた。また、Bm投与したWI-38細胞をローダミン・ファロイジン染色したところ、ストレスファイバーの消失が認められた。これらの結果から、細胞はBmによるDNA損傷を修復するための応答を行い、細胞周期の停止を引き起こすものと思われた。今後は、さらにDD法を行い、Bm肺線維症に関わる遺伝子を取得し、その分子機構を解明したいと考えている。
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