本実験は、昨年に引き続いてマウスMC3T3-E1細胞(骨芽細胞に分化誘導可能な細胞)における微小重力に感受性のあるシグナル伝達系および伝達経路上の作用点を明らかにすることを目的に、上皮増殖因子(EGF)刺激で誘発されるプロテインキナーゼ系(MAPKカスケード)に対する微小重力の影響を検討した。本年度では、特にMAPKのリン酸化に伴って認められる細胞質から核内への移行に及ぼす微小重力の影響を検討した。 MC3T3-El細胞を細胞培養容器内で培養し、小型ロケット機(NASDA;TR-7号機)に搭載して打ち上げた。ロケットが落下するまでに生まれる微小重力空間でMC3T3-E1細胞に対してEGF刺激を与え、ホルマリン試薬を注入し帰還させた。また、比較対照の微小重力非暴露群として地上において同様の操作を行った。ホルマリン処理により固定された細胞を用いてリン酸化MAPKの局在を調べた結果、EGF刺激後のリン酸化MAPKの核内での量的増加は、地上対照群と比較すると微小重力暴露群においてわずかな抑制が観察された。昨年の研究でEGF刺激によるc-fos遺伝子の発現誘導も、地上対照群と比較して微小重力暴露群においてわずかな抑制が認められたことから、微小重力がリン酸化MAPKの核内移行に抑制的に働く可能性が示唆された。
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