研究概要 |
乳癌患者の手術材料より得られた癌組織より全RNAを調整し、RT-PCR法によりアポトーシス制御因子であるBcl-2,Bcl-xL,Bak,Baxおよびエストロゲンレセプター(ER),その標的遺伝子であるpS2のmRNAの発現量を検出し、定量化を行った。先に報告されているようにアポトーシス抑制因子Bcl-2はER陽性の癌組織で高く発現していたが、これと同様にアポトーシス誘導因子Bakの発現量もER陽性の癌組織で統計的有意で高い発現量を示した。(p=0.041)更にERの蛋白量およびpS2mRNAの発現量とも統計的有為な高い相関を見出し、Bakがヒト癌組織に於いERによって制御されている可能性を示唆した。さらに乳癌患者組織のパラフィン包埋組織を抗Bakモノクローナル抗体を用いて染色したところ、正常乳管組織および癌組織が染まったが、間質での発現は認められなかった。染色の強さを3つに分類し、癌組織でのBak蛋白質の発現量とER発現の有無について検討したところ、Bak蛋白質はER陽性の癌組織で有為に高い発現を示し(P=0.0049、χ2=10.627)、この結果は先に示したmRNAの結果とよく一致していた。Bakの発現量の変動が乳癌の悪性化に何らかの影響を与えるかについて、BakのセンスおよびアンチセンスmRNAを発現するER陽性乳癌細胞株MCF-7の安定形質転換株を作製し、足場非依存性での増殖能について検討したところ、Bakを高く発現する細胞ではコロニー形成能の低下が認められ、一方Bakのアンチセンスを発現する細胞は低濃度のエストロゲン存在下でコントロールに比して高いコロニー形成能を示し、Bakの発現量の低下が乳癌の増悪化に寄与しうることを示した。さらにBak遺伝子の発現制御を明らかにするためにプロモーター領域を単離し、転写開始点の決定を行った。
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