乳癌手術材料より得られた27検体より、全RNAを抽出し、RT-PCR法により、アポトーシス制御因子Bcl-2、Bcl-xL、Bak、Bax、エストロゲンレセプター(ER)、さらにERの標的遺伝子であるpS2の発現を測定し、EIA法で定量したER蛋白質の発現との相関について検討した。ER陰性の乳癌では陽性のものに比してアポトーシス抑制因子Bc1-2およびアポトーシス誘導因子であるBakの発現量の低下が認められた。一方、パラフィン包埋した乳癌手術材料107検体を用いた免疫染色により、Bak蛋白質の発現量もERの発現と強く相関し、RNAで得られた結果と一致していた。このようにERの陰性化にともなうアポトーシス誘導因子Bakの発現量の変動が乳癌細胞の増殖に影響を与えるかについて、センスまたはアンチセンスのBak mRNAを恒常的に発現する乳癌細胞株MCF-7の安定形質転換株を作成し、種々のエストロゲン(E2)濃度下で足場非依存性細胞増殖能を検討したところ、Bak蛋白質を高発現する細胞は高濃度のE2存在下でコントロールに比して、コロニー形成能が低下し、アンチセンスを導入した株は低濃度のE2存在下で、コントロールより高いコロニー形成能を示した。よってアポトーシス誘導因子Bakは乳癌の悪性化、特にE2非依存性増殖能の獲得において重要な役割を担っていることが示唆された。Bakの発現ベクターを微量注入法でMCF-7細胞に導入し、一過的に発現させたところ、Bakと同様にアポトーシスを誘導した。Bakは癌抑制遺伝子p53の標的遺伝子であり、乳癌の多くの癌でp53遺伝子に変異・欠失が認められ、Bakを介する系での薬剤によるアポトーシス誘導に抵抗性を示すようになる。BakはBakと同様にアポトーシスを誘導したところから治療の新たな標的遺伝子として有効であると考えられる。
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