研究概要 |
スフィンゴ脂質生合成の初発段階を担うセリンパルミトイル転移酵素(SPT)の発現には、少なくとも二つの遺伝子(LCB1,LCB2)が必須であることが出芽酵母の遺伝学的研究から明らかにされているが、これら二つの遺伝子産物がSPTのサブユニットであるか否かは不明のままであった。 ライセニンはスフィンゴミエリン結合性細胞毒である。突然変異剤処理したハムスター由来CHO-Kl細胞から少なくとも三つの型のライセニン耐性変異株を分離した。そのなかの一つLY-B株は、LCBl蛋白質の発現が欠損し、SPT活性およびスフィンゴ脂質生合成能もほぼ完全に欠失していた。His6配列を付加したハムスターLCBl蛋白質をLY-B細胞に発現した場合、回復したSPT活性はHis6親和性樹脂に吸着し、内在性のLCB2蛋白質も樹脂に吸着することを示した。また、野生株細胞のSPT活性が抗LCB2蛋白質抗体で免疫沈降され、その際、内在性LCBl蛋白質も共沈降することも示した。これらの結果から、SPTにおいてLCBl蛋白質とLCB2蛋白質が複合体を形成していることが初めて証明された。 LY-B株は、スフィンゴ脂質欠損培地中では増殖できないが、LY-B株に野生型LCBl蛋白質を遺伝子導入法で発現させるとSPT活性、スフィンゴ脂質合成活性およびスフィンゴ脂質欠損培地中での増殖能が回復した。なお、我々が以前分離した温度感受性変異株SPB-1とは異なり、LY-B株の欠損は33-40℃のどの培養温度でも見られた。これらの結果から、哺乳動物細胞の増殖に関して、スフィンゴ脂質は広い生理的温度で重要な役割を担っていることが明らかとなった。
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