研究概要 |
本年度の研究実施計画に基づいて研究を行い、新規β-1,4-ガラクトース転移酵素(β-1,4-GalT)の機能について以下の新しい知見が得られた。 1, 細胞の癌化に伴って糖タンパク質N型糖鎖は高分岐化し、特にN-アセチルグルコサミン転移酵素V(GnTV)によって形成されるGlcNAcβ1→6Man側鎖上には腫瘍抗原が発現しやすくなる。新規β-1,4-GalTの基質特異性を種々の合成基質を用いて解析した結果、GlcNAcβ1→6Man側鎖に既知のβ-1,4-GalTよりも効率よくガラクトース(Gal)を転移することが判明した。 2, 新規β-1,4-GalT遺伝子を導入,発現したSf-9細胞では、対照細胞に比べて幾つかの糖タンパク質N型糖鎖でガラクトシル化が亢進していた。このことから、新規β-1,4-GalTはある特定の糖鎖構造をもつ糖タンパク質のガラクトシル化を担っている可能性が考えられた。 3, 新規β-1,4-GalTの基質特異性から、この酵素の発現は細胞の癌化と何らかの相関がある可能性が考えられたので、種々のヒト癌細胞株における新規及び既知のP-1,4-GalT遺伝子の発現を解析した。その結果、各β-1,4-GalT mRNAの発現量は個々の癌細胞によって異なっていたが、興味深いことに新規β-1,4-GalT mRNAの発現パターンはGnTVmRNAの発現パターンとよく相関していた。ヒト大腸癌由来SW480は、調べた癌細胞株の中で新規β-1,4-GalT及びGnTV遺伝子の発現が最も高く、癌の転移に関与すると報告されているポリ-N-アセチルラクトサミン構造やシアリルルイスX抗原を発現していた。以上の結果から、癌細胞において新規β-1,4-GalTはGnTVと共役して、腫瘍抗原が発現する基本骨格構造を作り出している可能性が考えられる。
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