本研究では、癌細胞と肝実質細胞における放射性代謝物の異なる排泄挙動を利用して、癌細胞に選択的に代謝能を送達できる蛋白質放射性医薬品を開発することを目的とする。そこで、胆汁排泄機構の存在しない癌細胞のモデルとして肝非実質細胞を選択し、肝実質細胞、非実質細胞それぞれのリソソームに受容体を介して取り込まれるNGA、NMAを母体蛋白質として用い、各種RI標識法に由来する放射性代謝物に関する以下の知見を得た。 1.SCN-benzyl-EDTA、EMCS-benzyl、cyclic DTPA dianhydrideで作製した^<111>In標識NGA、NMAをマウスに投与したところ、肝実質細胞、非実質細胞からの放射能消失速度は、それぞれの標識法により大きく異なった。また、これはそれぞれの標識試薬に由来する放射性代謝物の動態の相違に起因することが明らかとなった。 2.SCN-benzyl-EDTA、EMCS-benzyl-EDTAで作製した^<111>In標識NGAをマウス及びラットに投与したところ、いずれの場合も、ラット肝実質細胞からの放射能消失が、マウスに比べて大きく遅延した。生成する放射性代謝物の化学形、その生成速度を検討したところ、両動物種間で相違は認められなかった。さらに、放射性代謝物の肝実質細胞における分布についても両動物種間で相違が認められなかった。これらの結果から、RI標識蛋白質投与後の肝実質細胞からの放射能消失は動物種により異なることが明らかとなり、この原因は、放射性代謝物のリソソームからの消失速度の種差であることが示された。 これらの結果は、肝実質細胞から速やかに胆汁排泄されるが、癌細胞には長時間滞留する放射性代謝物を設計するための基礎的指針となると期待される。
|