研究概要 |
今年度は,ヨモギ属-(Artemisia)植物の中でも特に抗マラリア活性を有する化合物アルテミシニンが単離されているArtemisia annuaの分析を中心に行った.A.annuaはアルテミシニンの製造原料として重要で,また「青蒿」と称して中国では生薬市場において販売されている生薬である.したがって,薬用資源の品質の維持や経済的な観点からアルテミシニンの含有率を把握することは大変重要になってくる.ところが,植物に含有されるアルテミシニンの量は個体によって差があるらしいという報告が多く見受けられるため,今回申請者は日本・中国市場で販売されている「青蒿」を数種類入手し,それらに含有されるアルテミシニンの量を分析した.微量のアルテミシニンを簡単に分析することはこれまで困難とされていたが,申請者が考案した個体抽出を用いる方法で容易にGC-MS分析を行うことが可能となった.この方法を用いて,北京市場品,陝西省市場品,大阪市場品について分析を行った.その結果,大阪市場品でアルテミシニン含有量がもっとも多く,北京市場品の5倍近く含有されていた.一方,陝西省市場品にはアルテミシニンがほとんど含有されず,市場品によって大きく差のあることが判明した.さらに,野生のA.annuaを採集してそこに含まれるアルテミシニンの含有量を測定した結果,やはり陜西省で採集された植物にはほとんどアルテミシニンが含有されておらず,北京採集品には相当量含有されていた.また,広東省の西双版納で採集された植物についても分析を行ったが,これには北京採集品の5倍以上のアルテミシニンが含有されていた.これらのことから,個体によりA.annuaに含有されるアルテミシニンの含有量が著しく変化していることが判明した.今後は,本植物を含め本邦に自生するヨモギ属植物の機構,土壌,季節などによる成分変動を中心に分析を行っていく.
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