エンドトキシン(LPS)が誘発する薬物胆汁中排泄能の低下の機序を明らかにするため、アニオン輸送系を介して胆汁中に排泄されるβ-ラクタム系抗生物質セフォペラゾン(CPZ)の体内動態ならびに胆汁中排泄機能の変化とこれに対する炎症反応、免疫応答などの生体防御反応の関与について検討し、以下の知見を得た。 1) 薬物の肝胆管系移行動態に及ぼすエンドトキシンの影響の時間推移 エンドトキシンよって生じる薬物胆汁中排泄の低下の時間推移を薬物速度論的に検討した。CPZの胆汁中排泄クリアランスはLPS1mg/kg投与後30分以内に著しく低下し、その後120分まで持続した。したがって、CPZの胆汁中排泄クリアランスの低下にはLPSによって生じる何らかの急性反応が関与することが示唆された。 2) 薬物胆汁中排泄機構に対するエンドトキシンの作用と腫瘍壊死囚子(TNF)の関与ならびに白血球の役割 LPSが誘導するTNFの産生を抑制することが報告されている顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を前投与したラットにおいて、LPSによるCPZ胆汁中排泄能の低下が増強された。この結果から、LPSによるCPZの胆汁中排泄能の低下に対してTNFの関与が小さいこと、また、G-CSFによって増加した白血球もしくはこれから放出されるTNF以外のメディエーターが大きく関与することが示唆された。 3) エンドトキシンの薬物胆汁中排泄低下作用に対する免疫・炎症反応の関与 免疫抑制作用、抗炎症作用を有する副腎皮質ステロイド薬デキサメタゾンの前投与により、LPSが誘発するCPZの胆汁中排泄率とそのクリアランスの低下が顕著に抑制された。したがって、LPSによる薬物胆汁中排泄低下には免疫反応、炎症反応が関与するとともにLPSが肝細胞に直接障害を与え、薬物の胆汁中排泄を低下させるものではないことが明らかとなった。
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