ヘリコバクター・ピロリ産生アンモニア-モノクロラミンの胃粘膜に及ぼす影響について検討し、以下の成績を得た。 1. アンモニアと次亜塩素酸を混合させることにより作製したモノクロラミンの経口投与は、それぞれ単独の場合と比較して、より低濃度から重篤な胃粘膜傷害を惹起した。また、ラットの胃をex-vivoチャンバーに装着した条件下において、それ単独では傷害を惹起しない低濃度のアンモニアの胃粘膜適用が、脱血により内因性の次亜塩素酸を発生させることにより、著明な胃粘膜電位差(PD)の低下と重篤な粘膜傷害を惹起した。以上より、外因性および内因性モノクロラミンは胃粘膜に対して、極めて低濃度から傷害性を発揮することが判明した。 2. 胃をex-vivoチャンバーに装着した条件下に、モノクロラミンを胃粘膜に適応した場合、著明な胃粘膜電位差(PD)の低下が観察されたが、他の傷害物質とは異なり、モノクロラミン除去後もPDの回復はほとんど観察されなかった。すなわち、モノクロラミンの胃粘膜傷害性は極めて強力であり、胃粘膜の修復機構に対しても影響を及ぼすことが推察された。 3. モノクロラミンにより誘起された胃粘膜損傷の治癒は、エタノールの場含と比較して有意に遅延しており、またそれ自身では傷害を惹起しない低濃度のモノクロラミンの連続投与により、エタノール誘起胃粘膜損傷の治癒が有意に遅延することが判明した。2)および3)sの結果より、モノクロラミンはそれ自身で損傷を惹起するのみならず、一旦発生した傷害の治癒も遅延させることが判明した。 4. ex-vivoチャンバー条件下にモノクロラミンの胃粘膜適用は一過性の著明な胃粘膜血流の増大を引き起こし、この増大は知覚神経麻痺により消失した。また、カプサイシンの粘膜適用により誘起される著明かつ持続的な粘膜血流の増大は、モノクロラミンを前処置した胃粘膜においては知覚神経麻痺動物と同様に消失していた。一方、モノクロラミン誘起胃粘膜損傷の発生は知覚神経麻痺により著明に増悪した。以上より、モノクロラミンは急性的に知覚神経関連ペプチドを遊離し、その結果枯渇させることにより知覚神経を麻痺させるものと推察される。すなわち、モノクロラミンによる胃粘膜損傷の治癒遅延は、知覚神経の異常に伴う粘膜血流調節の破綻に、少なくとも一部、起因している可能性が推察される。
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