外科的切除により外見や機能に著しい変化をきたした癌患者とその家族は、物理的/身体的、心理的、社会的に様々な困難を抱えている。医療者は、このような患者と家族を支える必要があるが、これまでの医療においては対象が患者に限定され、ケア対象でありながら患者を支える立場の家族には十分なケアが行われていなかった。これを充実させていくためには、患者とその家族の状況を明らかにする必要がある。 そこで、本研究は、外見や機能に変化をきたした癌患者とその家族について、入院中から退院後の状況、変化への適応のプロセス、相互作用を明らかにすることを目的として、参加観察およびインタビューによる調査を行っている。現在はデータ収集の為の調査を、首都圏の癌専門病院の病棟と外来をフィールドとして、乳がんにより乳房を切除した癌患者とその家族を対象に、手術直後から退院にかけてのインタビューを中心に行っている。 乳房を切除した直後において、患者は癌の診断から時間が短いため外見の変化よりも生命の危機感が大きく、また手術を乗り越えたという高揚感の方が強く、乳房喪失の悲しみはあまり深く実感されていなかった。乳房喪失の重要性には年齢的要因、温存術も可能であったのかどうか、夫や子供との信頼関係の強さが影響していた。 今後はさらに事例を積み重ねるとともに時間の経過による変化、家族の体験との照らし合わせを進めていき、乳房切除による外見や機能の変化が患者および家族に及ぼす影響の全体を明らかにしていく予定である。
|