1998年度は、おもに韓国における進化理論の受容と研究の現状について調査をおこなった。進化理論のなかでもとくに注目したのが、社会生物学や人間行動学を中心とする、人間への適用領域である。調査はいまだ予備的な段階をおおきく越えるものとはなりえていないが、韓国を代表する生態学者であるチェ・チェチェイ博士(ソウル国立大学生物学科助教授)や、社会学者のリー・マンガップ博士(ソウル国立大学名誉教授)、生物学者のリー・ビュンフン博士(全北国立大学韓国生物多様性研究所所長、生物学科教授)らへの聞き取り調査を中心に、韓国における社会生物学や進化理論の現状について、かなり正確なアウトラインを描くことができた。 現在までに得られている結果は、韓国ではダーウィン進化理論そのものから古典的動物行動学、社会生物学理論、それへの反論、理論的な改訂版である進化心理学などが、すべてほとんど同時期に導入され、渾然一体となって受け入れられてるーーといいうものである。その原因として、日本による植民地支配から朝鮮戦争にいたる歴史的・政治的状況が研究や高等教育のインフラ整備を遅らせたことが大きいようである。 来年度は今年度の成果をふまえ、韓国において進化理論や人間社会生物学などが実際にどのような反応を受けているのかをさらにくわしく調査するとともに、中国の状況についても調査をおこなう予定である。
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