研究概要 |
前年度に得られたトレーニングの適応過程に関する時系列データを用い、トレーニング期に加えトレーニング中止後を含めた適応現象にみられる個人差を数学的モデルにより検証し、トレーニング中とトレーニング中止後での適応現象の比較を行った。トレーニングは、年齢から推定した最高心拍数の75%に相当する負荷(以下、PWC75%HRmax)で1回につき60分間、週5回、1ヶ月間行われた。得られたデータは、日々のトレーニング前に行う形態計測、安静時および運動時の心拍応答.(PWC75%HRmaxを含む)であった。各測定項目のトレーニング期1 ヶ月分およびトレーニング中止後1ヶ自分の時系列データを1次回帰モデルにより評価したところ、得られた適応過程のトレンドに個人差がみられた。特に全身持久力の指標とされるPWC75%Hrmaxは、トレーニング期において、すべての被検者でトレーニング経過に伴う有意な増加がみられたのに対し、トレーニング中止後では被検者によって有意な増加および減少、あるいは変化がみられないといった異なる変化を示した。次に、得られた時系列データのうちトレーニング量(その日の運動時心拍数)を入力、トレーニング期間中の各測定項目を出力とした数学的モデル(Mortonetal,1990)を用いて、両者の関係をモデル化した。このモデルは、各測定項目の変化をトレーニングによるブラスの影響とマイナスの影響の2つの拮抗する関数の差とするものであった。その結果、トレーニング中のブラスおよびマイナスの影響の時定数は3〜28日で、両者の大小関係は被検者によって異なっていた。またトレーニング中止後を含めたデータから求めた両指標の大小関係は、トレーニング期のみから求めたものと違う傾向を示したことから、トレーニング期とトレーニング中止期の適応現象は異なる時間特性をもち、個人において、それらの関係が一様でない可能性が示唆された。
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