継続的な運動は、粥状硬化症を予防あるいは軽減させる可能性が示唆されているが、その機序は必ずしも明らかではない。そこで、粥状硬化症の予防・軽減に対する継続的運動の作用機序を明らかにすること(平成11年度)に先立ち、本研究では、粥状硬化の病理学的特徴の1つである内膜の平滑筋細胞増殖による線維性肥厚に焦点を絞り、粥状硬化の発生・進展メカニズムについて検討した。 9週令のWistar-Kyoto系雄ラット10匹中5匹に対し20週間、運動させず普通食飼育し、その後の8日間にも運動させず、餌は高コレステロール食に切り替え、さらに粥状硬化の誘発作用が報告されている脂肪乳剤を、体重100g当たり1mlの割合で1日2回、尾静脈から静注投与した。一方、21週間運動させず普通食にて飼育した5匹を対照群とした。両群のラットを29週令まで飼育の後、ペントバルビタール麻酔下において開腹し、胸部下行大動脈を摘出し、組織切片用と平滑筋培養用のサンプルに分けた。その後、ラットはペントバルビタール麻酔下で頚椎脱臼法により安楽死させた。両群のラットから採取した組織切片用の胸部下行大動脈は、免疫組織化学的染色を施して、動脈壁の構造や成分を比較検討した。また平滑筋培養用の胸部下行大動脈からは、中膜平滑筋細胞を分離し、CO_2インキュベーター(CPE-BABY)を用いて継代培養し、平滑筋細胞の遊走能を比較検討した。 その結果、高コレステロール食+脂肪乳剤の投与負荷群のラット胸部下行大動脈壁の内膜において軽度の肥厚が認められたが、大動脈壁の中膜に特異的なコラーゲン陰性エリアは認められなかった。また、中膜平滑筋細胞遊走能の比較では、有意な差は認められないものの、胸部下行大動脈壁の内膜肥厚が強いラットほど、遊走能が高い傾向が伺えた。さらに被検体数を増やして、平滑筋細胞遊走能の変化ならびに血管壁の組織学的変化の検討を加えた上で、運動負荷の影響を検討する予定である。
|