研究概要 |
本研究では、実際の水泳運動(クロール泳)中に手部の圧力差を計測し、圧力差と推進力との関係について検討した。被験者として、大学水泳部員男子6名、女子4名を用いた。被験者の右手背部、右手掌部,それぞれの人さし指、中指、薬指の中手関節付近に防水加工を施した小型圧カセンサーを3個ずつ,計6個装着した。この圧力センサーからの信号は、サンプリング周波数10HzでA/D変換した後、パーソナルコンピューターに入力し,手掌部と手背部の平均圧力差を算出した。この平均圧力差に手部の平面積を乗じることで手部が発揮していると思われる手部出力を推定した.また被験者は固定された状態で静水中を4種類のストロークペースで泳ぎ、前方への牽引力を推進力計測装置によって測定した。計測の結果,手部圧力差,手部出力,総推進力の間に以下のような関係が明らかになった.1)ストロークペースが落ちていくとともに、圧力差、手部出力は減少する。特に、圧力差、手部出力ともに平均値は顕著に減少する。2)圧力差と推進力、手部出力と推進力において有意な正の相関関係が認められたことから、クロール泳で泳ぐ時、手部の圧力差力吠きい者は、大きな推進力を発揮することができるといえる。 以上の結果から,手部の圧力差と推進力は密接な関係にあり,圧力差を計測することによってある程度推進力が推定可能であることが明らかとなった.よって圧力差は,泳者の推進技術を反映する重要な指標であるといえる.これまで,泳技術を定量的に評価する場合には,泳者の水中泳動作を動作分析するしか方法がなかった.しかし動作分析を行うためには多大の時間を要し,結果をすぐさま選手やコーチにフィードバックすることは困難であった.しかし圧力差を指標とすることでより簡便に,そして精度よく評価できるようになった.今後はこの成果をふまえ,測定機器の汎用性を高め,どこのプールでも計測が可能となるようにしたい.
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