研究概要 |
平成10年度の研究対象は,持ち上げ動作の中で,爆発的な筋パワー発揮が必要なウエイトリフティングであった.それは,ハイ・パフォーマンス発揮時の運動制御のメカニズムを明らかにするためであり,合理的な持ち上げ動作を導出することにあった.その結果,熟練したリフターは,ダブル・ニー・ベンドという独特なリフティング技術を有しており,この技術を合理的に行うように各筋群動員の戦略を用いていた.最初の膝伸展の局面では,内側広筋(膝伸展,単関節筋)と拮抗二関節筋(大腿二頭筋,半腱様筋)の同時収縮により,膝伸展トルクを股関節伸展に利用していた.次の膝屈曲局面では,膝伸展筋群は活動を休止し,屈筋群のみの強い活動により,強い膝屈曲トルクを働かせ,膝再伸展の局面では,大殿筋(股関節伸展,単関節筋)と大腿直筋(拮抗二関節筋群)の同時収縮により,股関節トルクを膝伸展トルクへ伝達させていた.熟練したリフターは,単関節筋,二関節筋を含めた拮抗筋群の同時収縮,緊張-弛緩を巧みに利用することで,効果的に力の伝達を行っていた. 平成11年度は,日常生活でよく見られる,膝を使っての持ち上げ動作(LL)と膝を使わない持ち上げ動作(BL)の生体負担度を比較した.その結果,BLは偏った筋群の使い方となり,下肢筋群全体の筋放電量も高い.しかもBLでは,腰仙関節にかかる剪断力は大きくなり腰痛発症の危険性がLLより高い.その一方,LLは下肢筋群全体の筋放電量が少なく,すべての筋群が活動する.そのため,二関節筋の腱作用を利用した持ち上げ動作が可能となる.また,腰仙関節にかかる剪断力は,動作時の姿勢に大きく依存する.持ち上げ開始姿勢時に腰仙関節を伸展した状態(背中を張った状態)であれば,剪断力を低減させることができることが分かった.「膝を使って」持ち上げることを指示するだけでなく,熟練したリフターが実践している脊柱の伸ばし,脊柱と骨盤とが直線になるように腰仙関節を伸展した姿勢での持ち上げ動作を指導することで,腰痛発症の危険性が少ない合理的な持ち上げ方を習得することができると示唆できた.
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