平成10年度本研究の目的は、文献研究(研究1)、選手に対する面接調査(事例検討;研究2)、大学運動選手におけるソーシャル・サポートの基礎的調査研究(研究3)の3点であった。まず、研究1では、社会心理学領域におけるソーシャル・サポート研究を概観し、体育・スポーツ領域におけるソーシャル・サポート研究を比較検討した。その結果、大学運動選手は競技状況を反映した特殊なストレス(チーム内の対人関係、卓越へのプレッシャー、他)に晒されていることが明らかとなり、ストレス緩和モデルおよび介入方略について独自に概念枠組みを構築する必要性が指摘された。続いて、研究2では、あるチームスポーツにおいてユニバーシアード世界大会に出場し、優秀な成績を収めた選手に対して詳細な面接調査が実施され、コーチ、チームメイト、先輩といった、大学運動選手にとって一般的に重要と位置づけられる他者との関係について吟味された。そこでは、これらの対人関係が、ストレスの原因となる一方で、本人の取り組み次第では他のストレスを緩衝する資源となることも確認された。特に、対人関係の持ち方やサポートへの指向性といった個人特性が、媒介変数としてストレス緩和に重要な役割を持つことが示唆された。そこで研究3では、ストレス事象を独立変数、University Personality Inventry(UPI)で測定される精神的健康度を従属変数、ストレス対処能力、サポート指向性(「群れ」 「無関心」 「配慮」といった対人関係の特徴)、非合理的信念を介在変数とする調査計画の元に、質問紙調査が実施された。大学運動選手200名を対象とした調査の結果、ストレス事象の頻度とUPIで測定される精神的不健康との間には正の相関が認められるが、ストレス対処方略が豊富で、非合理的信念の低い選手においては、この関連が認められず、これらの個人特性を高めることでストレスマネジメントが可能となることが示唆された。
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