本研究は、現在の日本のスポーツ価値意識における特異性を明らかにするとともに、スポーツ環境や社会・文化システムがスポーツ価値意識の形成過程に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。そこで本年度は、この目的の達成のためにスポーツ環境の相違がスポーツ価値意識の形成にどのような影響をもたらすのかについて明らかにすることを目的とした。具体的には一貫して学校運動部で活動を継続してきた競技者(以下、「学校運動部タイプ」という)と一貫して民間スポーツクラブ(地域スポーツクラブを含む)で活動を継続してきた競技者(以下、「スポーツクラブタイプ」という)のスポーツ価値意識の共通性と相違性を実証的に明らかにし、スポーツ環境との関連性について検討した。 まず、本年度はスポーツ価値意識研究のレビューからはじめ、M.ウエーバーや見田の価値意識にかかわる理論を基礎として、多々納、三本松、上杉らのスポーツ価値意識の枠組を援用しつつ、スポーツ環境と価値意識の関係を分析するためにp.ブルデューのハビトゥス、場(シャン)、プラチック概念を用いて分析枠組を設定した。そこで、まず大学運動部の競技者を対象(N=215)として、本年度は予備調査的に調査を実施し、スポーツ価値意識として全力主義、精神・修養主義、国家主義、勝利主義、形式主義、アマチュア主義等を抽出した。そして、これらの価値意識を学校運動部タイプとスポーツクラブタイプで比較検討し、前者で全力主義、精神・修養主義、形式主義が強く、後者で勝利主義が強い傾向が認められた。また、これらの結果について競技者がそのような価値意識をもつに至った過程を「場(シャン)」の違いから親や指導者のスポーツ価値意識とも関連させてケーススタディをもとに検討したところ両者に独自の場の構成とハビトゥス形成が示唆された。 これらの点については、次年度も引き続き詳細に検討する。
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