本研究は、スポーツ環境や社会・文化システムがスポーツ価値意識の形成過程に及ぼす影響を明らかにすることを目的として実施された。まず前年度に引き続きスポーツ環境の相違がスポーツ価値意識形成にどのような影響をもたらすのかについて学校運動部型とクラブ型のスポーツ価値意識とその形成に関する比較検討を行った。対象はサッカーに焦点化し、中高一貫して学校運動部型に所属し全国高校総合体育大会上位高校4チーム計194名、中高一貫してクラブ型に所属する全日本クラブユースサッカー選手権上位の5チーム78名であった。結果、学校運動部型において形式主義、伝統主義傾向が強く、クラブ型で全力主義、努力主義や鍛錬主義といった傾向と同時に楽しさ志向が強いという傾向が認められた。特に後者におけるニ重性について後者において世俗内禁欲傾向が強かったことを勘案すれば、勝利に対する志向性も看取されることからその特徴として、勝利志向を全力志向で隠蔽し、さらにそれを楽しさ志向の強調によって懐柔する<場(シャン)>が指導者をはじめとして整備されていることが推察された。つぎに社会・文化システムの相違がスポーツ価値意識にどのような差異をもたらすかについて、米国在住の日本人のスポーツ競技者に対して当初、量的データによる検討を予定していたが物理的な問題が大きく、今後継続研究を行うこととして、今年度は質的データの収集を中心にケーススタディを行った。対象は米国在住の日本人であり高校生バスケットボール選手5名である。その結果、楽しさ志向、全力志向が顕著であり、形式主義や伝統主義といった傾向性は皆無であった。このことから従来指摘されてきた日本人のスポーツ価値意識である精神修養主義、形式主義、伝統主義とは全く異なった価値意識を形成しており価値意識形成における社会・文化的影響の大きさが示唆されたが、この点については今後、さらなる詳細な検討が求められる。
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