本研究では、珠江デルタ地域と長江デルタ地域の比較を通じて、考察を進めた。 珠江デルタ地域では、行政村レベルの農村共同体が自らの土地を工業団地として開発し、香港をベースとする外資系企業の委託加工を請負い、あるいは土地や工場などの不動産を賃貸することによって資本を蓄積し、急速に都市的な景観を形成していったことが明らかになった。 一方、郷鎮企業の発展が耳目を集めた長江デルタ地域では、都市形成についても農村共同体の果たす役割が大きいのではないかという当初の予想に反し、むしろ地方政府が都市形成の主導的な役割を担っていることがわかった。南京近郊の江東新区の事例では、全面的な土地収用とともに農村共同体が消滅しつつあった。江寧開発区の事例では農村共同体が土地収用補償費の配分や生産請負制の管理の面で機能していたが、インフラや住宅の建設はもっぱら開発区の計画と資金の枠の中で進められていた。南京遠郊の江寧鎮の事例では、郷鎮企業による資本蓄積に依拠して鎮政府によるインフラ整備と農民個人による住宅建設などが行われていた。 長江デルタ地域(南京市郊外)における都市形成がこのような様態をみせる要因として、ひとつには、華南の珠江デルタ地域などとは違って外国企業による農村部への投資が多くなく、1990年代に入ってから農村共同体の資本蓄積が十分に進まなかったことがあるのではないか。また、90年代前半の開発ブームを経て農地保護の動きが強まる中、中国全体で都市形成が政府のコントロールのもとに置かれようとしていることもあると考えられる。しかし今回はこれらの考え方を十分に実証するには至らなかった。 今後、都市形成のメカニズムをさらによく理解するためには、具体的な土地利用の変化、土地所有・使用権の移転、そしてそれらにともなう資金の流動などを実証的に解明するような、よりインテンシヴな研究が必要であろう。
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