研究概要 |
本研究は、市と市を巡る商いを生業となした「市掛商人」の具体像を把握し、17-18世紀の市掛商人の変質と地域的市場圏の形成との関連について、都市ー村落関係の基盤形成という視点から究明することを目的とした。平成10年度においては、とくに北関東における市掛商人の組織形成に注目し、江戸時代初頭の連雀商人の存在形態とその地域的特質について検討を進めた。その概要は以下のように集約できる。 1) まず、市掛商人の活動と組織について、市町形成との関わりから史料的再検討を試みた。上野国鳥山郷(現,群馬県太田市)の天笠氏が率いた連雀商人仲間や、相模国当麻宿(現,神奈川県相模原市)の市祭りに参集した商人集団は、いずれもその居住地は市町ではなく周辺村落に分布していた点が注目を要する。17世紀の連雀商人の組織は、こうした村落域に居住しつつ周辺の市町を市掛けすることを主たる活動としていたと指摘できる。江戸時代初頭に市町に移り住んだ商人と、在村の統括者に率いられた連雀商人集団は、都市ー村落関係においてその活動を相互補完していたと考えられる。 2) つぎに、17-18世紀に進行した市掛商人の変容について、関連する史資料の収集と、現地調査を進めた。具体的な調査地として茨城県新治郡新治村高岡集落を選定し、延宝期の「見世割帳」や正徳期の「市場間改帳」などの史料分析を行った。現在、高岡集落の形態分析と併せて、17世紀後半における市の空間構成の特質を、参集する商人集団やその販売品目と関係づけて検討を進めている。 本研究の課題に関連して、歴史地理学会第41回大会(東京学芸大学,6月6〜8日)シンポジウムで口頭発表を行い、成果の一部は「近世関東における市町と市掛商人の展開」として歴史地理学第41巻第1号-(平成11年1月)に収録された。
|