今年度は、日本とイギリスにおけるルーラル・ツーリズムに関する既往の研究の整理を進め、ルーラル・ツーリズムの概念、その実践例とそこに含まれる問題点を考察した。 そして、ルーラル・ツーリズムの実践が早くより行われているイギリスの農村地域の現状について、ピーク・ディストリクト・ナショナル・パークの農村の事例をとおして把握することを試みた。その成果の一端は、今年度の人文地理学会大会において、「イギリスの歴史遺産とツーリズム」という題目で発表した。ピーク・ディストリクトの村々では、水の恵みに感謝するために、井戸や泉を装飾する儀礼である井戸装飾祭が伝えられている。 そこでは、民俗芸術である古来の習慣を保存することに熱心な人々が多く、近年その祭りを行う村が増加していること、これによって地域活性化の動きがみられることを報告した。同時に、イギリスで最も著名な風景画家の一人であるコンスタブルの生誕地周辺が、「コンスタブル・カントリー」として売り出され、多くの観光客を惹きつけていること、コンスタブルの絵画に描かれた風景がいかに保全されているかについても報告した。 一方、日本の事例地域としては、福井県今庄町と群馬県六合村の両者について、山間地域の農村景観の変遷、および過疎化のプロセスを考察し、その地域のかかえる問題を明らかにした。このほか、群馬県の農山村で、ルーラル・ツーリズムがどのように展開されているのか、予備調査を行った。これらの地域では、景気の低迷によって観光入込客が減少しているところが多く、持続可能なツーリズムのあり方を考えることが重要な課題であると認識された。
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