本研究の目的は、近世京都および大坂の案内記を、近世都市研究の資料として活用するための、基礎的な研究を行うことにある。そのため、本年度は、まず、案内記の収集を行った。その際、国文学研究資料館によりデータベース化された『国書総目録』などを参考に、案内記原本の複写の収集につとめた。 その上で、案内記の類型化を試みた。まずは、従来から比較的研究成果がみられる京都案内記について、類型化のための二つ軸を設定した。その内の一方の軸は、記述のスタイルに関するもので、各名所等を一定の順序に従って記述する「道順方式」と、各名所等を分類項目別に記述する「アイテム方式」とに分類するというものである。また、もう一方の軸は作品としての性格に関するもので、文学的な要素を色濃く持つ「読み物」と、現在の旅行ガイドに類似した「実用書」とに分類するというものである。これら二つの軸により、各種の京都案内記を4類型に分類し、年代順に整理を試みた。その結果、17世紀末を境に、「道順方式」と「アイテム方式」のいずれにおいても、「読み物」から「実用書」への比重の移動が確認できた。 また、大坂案内記の類型化も試みたが、おおむね上記の京都案内記の類型を適用できることがわかった。ただし、大坂案内記に関しては、内容面から、新たな検討を要するものの存在がわかった。これは、狂歌などと密接な関係を有するものである。この種のものの位置づけや、京都案内記における同類のものの存在の有無に関しては、本年度十分に検討できなかったので、来年度の課題としたい。 このような、類型化とならんで、今後の利用も考慮して、案内記類のデータベース化も試みた。現段階では京都案内記の代表的なものの一部を対象にした試作であるが、来年度も引き続き、試みることにしたい。
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