調査対象地域である越美山地の山地斜面には斜面崩壊が多数分布し、これまで多くの土砂災害が発生してきた。このような斜面崩壊や地すべりの発生頻度は分布に偏りが見られる。まず1.5万分の1カラー空中写真の地形判読により、崩壊・地すべりの分布状態の把握を行った後、地質図との比較を行った。その結果、崩壊や地すべりの発生頻度は山体を構成する岩石によって大きく異なっていることが分かった。具体的には、手取層群の砂岩からなる山地斜面では崩壊・地すべりの発生頻度が高いのに対し、左門岳ユニットの砂岩からなる山地斜面では崩壊や地すべりがほとんど発生していないことが分かった。このような崩壊・地すべり発生頻度の違いは斜面における水の動きの違いに起因するものであり、水の動きの違いは斜面における土層や岩石物性の違いにコントロールされるものである。そこで、手取層群の砂岩と左門岳ユニットの砂岩からなる調査観測流域(流域面積1km^2)をそれぞれ一ヶ所づつ設定した。まず、この観測流域内の斜面において、貫入試験を行い、土層構造の調査を行った。その結果、手取層群の砂岩の斜面は土層(N値50以下で定義)が50cm以上最大1m程度であるのに対し、左門岳ユニットの砂岩の場合は土層が50cm以下で薄かった。このことから土層が薄い場合、崩壊発生頻度が小さいことが分かる。観測流域の出口にパーシャールフリューム・水位計を設置しこれらによって流量変化を観測した。また同時に雨量も観測した。さらにこれらのデータをロガーにより自記させた。その結果、手取層群の砂岩の流域では降雨に対する応答・減衰が遅いのに対し、左門岳ユニットの砂岩の流域では応答・減衰がやや早い傾向が見られた。ただし観測については実施期間が短く、来年度も継続して行う必要がある。また土層や岩盤の透水性などの検討も不可欠である。これらを来年度に重点的に検討したい。
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