越美山地における1年目の調査の結果、手取層群の砂岩からなる山地斜面では崩壊の発生頻度が高いのに対し、左門岳ユニットの砂岸からなる山地斜面では崩壊がほとんど発生していないことが分かった。このような分布の偏りを水文地形学的に検討するために、手取層群の砂岩と左門岳ユニットの砂岩からなる調査観測流域(流域面積1km^2)をそれぞれ一ヶ所づつ設定した。これらの観測流域における水分観測を2年目も継続するとともに土壌・基盤岩石に対するより詳細な調査を行った。まず、1つの流域内においてそれぞれ20箇所の地点において調査を行った。その結果、いずれの場合も尾根部の土層は斜面部のそれに比較して厚い傾向にあるものの、2つの流域間での厚さの違いは明瞭に認められた。すなわち砂岩の斜面は土層(N値50以下で定義)が50cm以上最大1m程度であるのに対し、左門岳ユニットの砂岩の場合は土層が50cm以下で薄かった。この違いはとくに斜面部において大きく現れた。このことから斜面部の土層が薄い場合、崩壊発生頻度が小さいことが分かる。観測流域の出口にパーシャールフリューム・水位計を設置することにより、1年目と同様に流量変化を観測した。また同時に雨量も観測した。さらにこれらのデータをロガーにより自記させた。その結果、手取層群の砂岩の流域では降雨に対する応答・減衰が遅いのに対し、左門岳ユニットの砂岩の流域では応答・減衰がやや早い傾向が見られた。また土壌や岩盤の物性については、大きな差は見られずシュミットハンマーによる反発値は、いずれも30ないし40%の比較的大きな値をしめした。また土層の浸透能についても大きな差は見られなかった。このことから土層の厚さの違いにより斜面における水の貯蓄形態が規定され、これによって斜面崩壊の発生が規定されているものと思われる。
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