油脂に含まれる高度不飽和脂肪酸は、食品の加工や調理の過程で酸化されやすく、その結果、油脂過酸化物が生成する。油脂過酸化物はさらに食品中の他成分と反応する過程で分解や重合をおこし、2次生成物が生ずる。また、油脂過酸化物やその代謝物は毒性を示し、老化や発ガンの原因ともなる。しかし、実際の食物においては多くの食品成分が共存しており、また、さまざまな調理操作が加えられるため、油脂過酸化物の挙動については明らかではない。本研究では、実際の食物における油脂過酸化物の分解とこれに由来する毒性アルデヒドの生成について、各種の食品成分や調理操作による影響をも含めて明らかにすることを目的に研究を遂行している。本年度は、油脂過酸化物として、リノール酸13-ヒドロペルオキシド(13-HPOD)を用い、油脂(トリカプリリン)中における13-HPODの分解をHPLCで追跡した。その結果、13-HPODの半減期は油脂中50℃で約50時間、100℃で約3.8時間と、水中(8.3時間、0.8時間)より安定であった。揚げ調理で用いられる170℃では半減期約10分と速やかに分解した。酸化防止剤として一般的に用いられるBHT(プチルヒドロキシトルエン)とα-トコフェロールとでは13-HPODの分解に与える影響が異なっていた。それぞれ13-HPODに対し等モル量添加した場合、BHTは13-HPODの分解を抑制(100℃、170℃で半減期4.4時間、18分)し、α-トコフェロールは分解を促進(22分、5分)した。分解反応の活性化エネルギーは水中、油脂中、BHT存在下、α-トコフェロール存在下で、それぞれ、13.9、13.3、14.9、14.5kcal/molとほぼ同程度であった。今回の研究では毒性アルデヒドの生成に関する明確な知見は得られなかった。
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