研究概要 |
葉酸は、DNA合成や細胞増殖など、生命維持において基本的かつ非常に重要なビタミンの1つであるが、今まで特異的定量法が確立していなかったため、その生体内での機能は十分に明らかにされていない。また、その欠乏によって、巨赤芽球性貧血が生じることが古くから知られているが、その発症のメカニズムについても不明の点が多い。本研究は、生体内での葉酸の機能を明らかにする基礎的研究として、葉酸欠乏症を取り上げ、特異的定量法に基づいてその発症のメカニズムについて解明することを目的とするものである。今年度は、欠乏課程での各葉酸誘導体の変化を、特異的定量法により検討するとともに、葉酸依存性酵素の活性の変化を併せて検討した。ラットに葉酸欠乏食を与えて飼育したところ、欠乏食開始5週目より体重が急激に減少した。血液のヘモグロビン濃度とヘマトクリット値は、5.6週目で急激に減少し、明らかに貧血の臨床症状が認められた。肝臓中の葉酸誘導体は、還元的条件で肝臓より抽出した後、HPLCにて分離し、電気化学的に検出する方法により、特異的に定量した。その結果、貧血の臨床症状が認められる5週目より以前の2週目より、肝臓中の葉酸誘導体のうちテトラヒドロ葉酸(THF),5-メチルTHF,5-ホルミルTHFが有意に減少した。しかしながら、葉酸依存性酵素の活性は、有意な変化が認められなかった。さらに葉酸は、プリンヌクレオチド代謝においては炭素供与体として、ピリミジンヌクレオチド代謝においては補酵素として重要な働きをしているので、葉酸欠乏課程における肝臓中のヌクレオチド量の変化も検討した。その結果、dCTP,dTTP,ATPが4週目より、CTP,dUTPが5週目より有意に減少し、UTPが4週目より有意に増加した。葉酸欠乏過程では、生体内のヌクレオチド量にインバランスが生じ、DNA,RNA合成に損傷を与えるのではないかと考えられた。
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