日本列島における人類遺跡から出土する動物骨の顕微組織像による種同定法の確立を目的とし、これまでにヒトを含めニホンジカ、イノシシ、クマ、タヌキ、ウサギ、イヌ等の縄文時代の遺跡から高頻度で検出される哺乳動物の骨格標本ならびに全身の部位別の骨の薄切標本を整えてきた。中でもニホンシカに関しては胎児を含めた幼獣から老獣まで各年齢段階の合計51体の骨格標本を揃え、骨組織構造への性別、加齢、疾病等による影響を検討した。それらの顕微組織像をコンピュータによる画像処理システムにデーターベース化し比較研究の基礎資料を作製した。さらに画像解析ソフトを用いて、骨組織像のオステオン、ハバース菅など形態計測について検討した。その結果ヒトや偶蹄類などいくつかの動物種に関しては同定基準を明確にした。また、実際に岩手県大迫町風穴洞穴出土の約18000年前のシカと判明している資料において骨組織像におけるシカの特徴を確認し、更新世に遡る資料についても分析が可能なことを確認した。これらの研究成果をふまえて、1999年北海道千歳市柏台I遺跡の2万年前の炉跡から出土の骨片、1999年仙台市六反田遺跡平安時代の焼失住居跡から出土の骨片が人骨であるか否か、動物種の同定が可能か分析を試みた。いずれにも分析に用いた資料は2cm未満の緻密骨片であるが、柏台1遺跡の骨片は偶蹄類の可能性が高く、六反田遺跡の骨片はヒトの可能性を指摘できた。それぞれ成果を公表し、遺跡から出土した考古資料に応用できることを示した。
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