美術教育の現場では、個々の学生の用いる色遣いに注目するが、色覚特性が色彩感性にどう反映されているのかは、あまりよく知られていない。いわゆる正常者(色覚健常者)とされる人々がもつ赤緑色覚特性がどのような性質であるかもあまり研究されていないようである。パーソナルコンピュータ等を用いた電子パレットの色選択についてある傾向が見出されたことについての報告が、本発表の趣旨である。 この研究では、絵画やデザインの作品に反映されている色選択から見出された色覚のヴァリエーション的特徴について報告する。個々の被験者の色選択の分光分布には、R光(615nm)の山が高いタイプ、G光R光の両方が高いタイプ、G光(550nm)辺りの山が高いタイプがみられた。また、この3つのタイプを典型としてそれぞれの中間型が分布する。そして、典型的なそれぞれのタイプは、どの色選択をみてもR光が高い、G光が高いなどの傾向が見られることがわかった。この3つのタイプを輝度と色度の色分布の形状から、それぞれジグザグ型(R光の高いタイプ)、サークル型(R光G光の両方が高いタイプ)、らせん型(G光が高いタイプ)とし、それぞれ典型的なタイプの被験者がどのような色選択を行っているかについて示した。サークル型の被験者らはバランスよく色を選んでいることがわかる(全体の7割程度がサークル型もしくはサークル型からジグザグ型への移行タイプに属する)。ジグザグ型の特徴は、黄色と黄緑の主波長が近接しており、赤紫の選択が赤と紫のほぼ中間に位置することである。らせん型の特徴は、黄緑と緑の主波長が非常に近接しているか、もしくは黄緑の主波長が緑の主波長より短波長側に位置するという極端な分布を示す。 表現の概説的傾向をいえば、らせん型の被験者らの絵は明暗のコントラストが良く、造形的なデッサンを好むように感じ、ジグザグ型の被験者らは、色を用いて描く構成するのを得意としている。
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