本研究では、昨年度健常児のデータに基づき、足し算習得にいたる数概念の発達順序性に関する項目ネットワークを開発した。本年度はそれを利用し、数概念の習得や算数学習に困難を示す児童の認知特性と足し算習得過程におけるつまずきの関連性を検討した。今回対象となったのは5名の児童(男児3名、女児2名、年齢範囲5歳6ヶ月〜7歳9ヶ月、49<IQ<90、医学的診断名として学習障害1名、アスペルガー症候群1名、注意欠陥多動性障害1名、精神遅滞2名)であり、全員に知能検査を実施し、さらに個人ごとの数概念に関する項目ネットワークを作成した。その結果、以下の知見が示唆された。1.まず、全般的な知能指数(IQ)が統計学的に有意に低い場合(IQ<70)は、数概念の発達も年齢レベルよりも低い段階でのつまずきが認められる。また、中度の精神遅滞(IQ<50)の場合は、知能検査における下位検査間のばらつきよりも総合した値としてのIQが、対象児の数概念の発達の遅れをよりよくあらわすと考えられる。2.言語性知能指数(VIQ)に比べ動作性知能指数(PIQ)が著しく低い場合(VIQ-PIQ>15)は、数唱は可能でも指示された実数を取り出せないことや2桁以上の数字と数詞の対応に混乱が生じることが示唆された。3.動作性知能指数(PIQ)に比べ言語性知能指数(VIQ)が著しく低い場合(PIQ-VIQ>15)は、量の概念に関する発達は比較的良好であるが、口頭による文章題に困難が認められた。4.算数に困難を示す児童は共通して、聴覚的な短期記憶に弱さがあることが示唆された。ただし、以上の知見については今後さらにケース数を増やして検討していく必要性があることも示唆された。
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