研究概要 |
1. アメリカ合衆国の教育現代化運動期の地理教育改革論を,ミネソタ大学が開発した『プロジェクト社会科』を手がかりにして解明した。研究の結果,科学的な地域認識形成を目指した地誌教育には,(1)地域区分に基づいて各地域の特色を解釈させるRegional Studiesと,(2)地域性の違いを説明する理論を事実に基づき批判・検証させるArea Studiesの2つの内容編成論があること,両者は子どもの主体的な思想形成を論理的に保証することが明らかとなった。研究の成果は,平成10年度全国社会科教育学会で発表した。 2. アメリカ合衆国の近年の地理教育改革論を,ホウトン・ミフリン社とスコット・フォーレスマン社が開発した地理教材を手がかりにして解明した。研究の結果,実質的な態度形成を目指した「理解主義」の地誌教育には,(1)地域の発生的理解を通じて国民意識を育成しようとする国家地誌と,(2)地域の内在的理解に基づき国際的資質を育成する世界地誌の2つの内容編成論があること,両者は子どもの主体的な思想形成を阻害する恐れのあることが明らかとなった。研究の成果は,平成10年度社会系教科教育学会で発表した。 3. 地理学習における市民性育成の論理を,『世界文化における概念と行為』と『グローバル教育における時事問題』を手がかりにして析出した。研究の結果,民主主義社会の一員としての資質を育成する地理教育には,(1)世界で観察される多様な人間行動の相互照射を踏まえて帰属社会の行動規範についての自己反省を迫る「内省的市民性」育成論と,(2)不公正の空間的再生産を秩序付けている世界システムの理解に基づきそれを打開する方策・解決案を構想させる「実践的市民性」育成論の2つの考え方があることが明らかとなった。研究の成果を,『社会科研究』第50号と『社会系教科教育学研究』第10号に投稿し,掲載された。
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