研究概要 |
本研究では,拡散過程に対する統計的漸近理論を確立することを1つの目的とするが,本年度は,連続時間観測に対するM推定量の漸近展開および最尤推定量の2次有効性について研究した.まず,本年度前半では,連続時間マルチンゲールに対する漸近展開を利用して,拡散過程のドリフトに対するM推定量の2次の漸近展開を求め,その結果を論文誌に発表した. この結果は,拡散過程と未知母数がともに1次元の場合についてであるが,本年度後半では,それらを任意の次元に拡張することを以下のように試みた.まず,強混合性を持つマルコフ過程に対する漸近展開を利用して,拡散過程を含むある確率過程のクラスに対して,任意次元の未知母数のM推定量に関する,3次の漸近展開を求めた.これは,状態空間が連続であるような点過程や,非線形時系列などの多くの統計モデルへ応用可能な結果であるが,本年度は,これを本研究の主題である拡散過程へ応用し,拡散過程と未知母数の次元が任意である場合について,M推定量および最尤推定量の3次の漸近展開を求めた.いくつかの具体的な拡散過程に対するモンテカルロシュミレーションを行い,得られた漸近展開が,観測時間が10以下であるような短い観測時間に対しても,高精度の近似式を与えることがわかった.さらに,局所対立仮説に対する対数尤度比統計量の2次の漸近展開も同様にして求め,拡散過程に対する最尤推定量の漸近2次有効性を証明した.これらの結果より,最も簡単な拡散過程であるオルンシュタイン=ウーレンベック過程では,平均の意味でも中央値の意味でも,最尤推定量のバイアス修正が,未知母数に依存しないことも示した.以上の本年度後半の結果は,国際会議等で発表し,学術論文誌へ投稿中である.
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