音声生成機構のダイナミクスを知るための時系列モデルの構築を中心に研究を進めた.まず研究環境の面では、高速CPU、液晶ディスプレイなどを備えたパーソナルコンピュータを購入でき、また有用で効率のいい数式処理ソフトウエアもインストールでき、プログラミング、データ解析、グラフィック作成の面でおおいに役立った.次に、研究を遂行する上で必要な議論をするために株式会社エイ ティアール人間情報通信研究所や統計数理研究所に出張することができ、本研究のメインテーマである非線形時系列モデルの構築に関するアイデアについて有益な情報交換をおこなうことができた.研究内容については、以下の2つの問題に取り組んだ.まず、擬周期的な振動をする生体時系列データ、ここでは基本周波数の揺らぎに関与する心拍のデータを題材として取り上げたが、そのダイナミクスを知るためにRadial Basis Function型自己回帰(RBF-AR)モデルの適用を試みた.心拍データに対しては、非線形モデルが予測の面で適していることがわかった.また、基本周波数との非線形的な相互関係を調べるためにRBF-ARとVARの混合モデルを考えた.2つめは、生体システムにおいて、ある時系列の特性が他のチャンネルから得られた時系列の影響を受けて振動している場合について考えたことである.この現象に対しCoefficient-Modulated自己回帰モデルというのを考案した.心拍のデータを用いてシミュレーション実験をおこない、モデルの正当性や、瞬時的なダイナミクスの変化を示した.このモデルについての今後の課題は、モデルの統計的性質の検証を深め、幾つかの実データへの適用をおこなうことである.これまでの研究結果の報告について、アメリカ統計学会、Newton Instituteでのワークショップ、放射性影響研究所で発表した.
|