本研究の目的は、既知な事象に対して、それを構成する特徴の抽出・記憶を行ない、この抽出・記憶した特徴を新しい組合せで再構成することにより新しい事象(未経験な事象)を生成するモデル、つまり、人間の創作的な思考課程の一つの基礎的なモデルを造り上げることによって、その計算原理を解明することにある。また、使用する手法は環境適応能力(各種学習方式が提案されている)の面で現時点で強力かつ有利であることから、神経回路網をベースに研究を行った。 初年度である昨年度は、モデル(計算機)が置かれている環境から経験(入力)される事象を基にその特徴を抽出し、記憶・未経験の特徴を補間出来るモデルの構築へ向けての研究を行った。 この初年度に得られた研究成果をもとに最終年度である本年度は、階層型の神経回路網モデルにおいて、環境から与えられる情報をより有効に教師信号として用いることにより、特徴空間は既知の事象に対する特徴を出来る限り多く、正確に獲得できる手法について更なる研究を進める予定であったが、その中心的役割を担う情報処理である神経回路網の学習速度において、本研究での使用を目的とした"Local Feature Learning Algorith(LFL)"においても十分な学習速度を達成できず、この学習速度の更なる向上に研究の重点を置くこととなった。その結果、LFLの学習パラメータの動的な切り替えによって目的とする学習速度まで達成できる可能性を得ることが出来た。この成果は、現在論文としてIEICEへ投稿中である。 また、階層型神経回路網の中間層に獲得される特徴空間上での状態を操作することで、創作的な思考過程の実現を目指しており、その為の中間層表現にダイナミクスを導入して新たな状態を生み出す試みを行った。その為の一方法として、単純な結合様式をもつ神経回路網であるが、動的な振る舞いと静的な状態とが表れる結合様式について一部明らかにすることが出来た。この成果も現在論文としてIEICEへ投獄中である。
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