本研究の目的は、従来のモデルに欠ていた観点で、生物学的に妥当な側面をモデル化し、その能力を評価することにある。特に、スパースコーディングとよりダイナミックな情報処理を中心課題として取り組んだ。 まず最初の問題は、近年注目されているニューロン間のスパイクのタイミングに情報をコードする可能性を探求し、その能力を理論的に評価することである。振動子ニューラルネットが周期的発火を示すニューロンの力学系から理論的に導出可能である点に注目し、ここではその典型的な振る舞いを解析した。具体的には、タイミングまで含めた発火パターンの連想記憶課題に関して、その能力を解析的に評価した。とくに、スパースコーディングとの関連を調べるために、モデルを非発火状態を含むように拡張した。 結合を破壊(対称・非対称切断)していく際の性能の低下が、従来モデルよりも少なく、かつ引き込み領域も十分に広いことがわかった。これはタイミングという微妙な情報を埋めこんだにも関わらず、切断に対する耐性はより高いことを示唆しており興味深い。 また、モデルを発火・非発火まで含めるように拡張した場合には、発火のニューロンの割合が少なくなればなるほど、記憶容量α_Cが増大することが、解析的に示された。これはスパースコーディングの条件下でも、発火タイミングのコーディングが有効であることを意味する。 次に、スパースコーディングの条件下でパターンの系列想起を行う場合の想起能力についても解析を行った。これは一般に通常想起すべき対象が動的なパターンであることを考えると、避けて通れない問題である。この場合も、結果はスパースになればなるほど記憶容量は増大し、自己想起と同様の特性を示すことが分った。 これらの結果はいずれも数値シミュレーションとよく一致し、理論の正当性を支持している。結論として、スパースコーディングは発火タイミングまで考慮した場合や、系列想起のような動的な連想記憶の場合でも従来モデルと同様の有効性を示すといえる。
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