本研究の目的は、従来のモデルに欠いていた観点で、生物学的に妥当な側面をモデル化し、その能力を評価することにある。特に、スパースコーディングの関連を考え、近年注目されているニューロン間のスパイクのタイミングに情報をコードすした場合、ネットワークの情報処理能力がどうであるか?理論的な評価を試みた。 用いたモデルは、理論的に周期的な発火をしているニューロ郡が互いに相互作用している状況で導入される位相モデルを参考にし、非発火・発火の遷移を含めて表現できるように拡張したものである。理論的な解析により、発火のニューロンの割合が少なくなればなるほど、記憶容量α_cが増大することが示された。これはスパースコーディングの条件下でも、発火タイミングのコーディングが有効であることを意味する。また、従来モデルでは困難であった発火率の違うパターンを同時に記憶することも可能であることも示せた。結合を破壊(対称・非対称切断)していく際の性能が、スパースになればなるほど、従来のHopfield Modelと同様に線形に低下していく結果が得られた。いずれにせよ、タイミングという微妙な情報を埋めこんだにも関わらず、引き込み領域(パターンのエラー修正能力)が以前として高いことを意味しており興味深い。これらの結果はいずれも数値シュミレーションとよく一致し、理論の正当性を支持している。結論として、スパースコーディングは発火タイミングまで考慮した場合や、系列想起のような動的な連続記憶の場合でも従来モデルと同様の有効性を示すといえる。 また、近年の生理学実験から視覚情報処理等において発火の同期を利用し、外界の情報の大局的な構造を統合している可能性が示唆され、その基本的なメカニズムに関心が高まっている。この際、特徴的な40Hz付近のニューロン活動が同期・非同期の基本的な周期となっていることが観測されている。近年、この周期の生成源としてパースト発火するchattering neuronが注目されている。しかし、このニューロンのパースト生成メカニズムは良くわかっていない。これに対して、新たなカルシウム依存性カチオン電流を仮定したHodgkin-Huxleyタイプのコンダクタンスモデルを構成し、実験と極めて良く合う振る舞いを再現することがわかった。これにより実験と比較しうるネットワークレベルのモデルが、今後研究可能になると考えられる。
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