研究概要 |
哺乳類の脳は機能構造ごとに階層構造にわかれていることが,生理学的にも解剖学的にも報告されている.ヒトやサルなどの視覚の経路において,形の認識を行なうような経路は解剖学的に,眼球からLGNを通してV1野の4層に入力され,V1野の出力がV1野2,3層から出され,この信号がV2野を通ってV4野,IT野へと投射されていくことが知られている.形の情報を伝えるといわれている,V1野以降の視覚経路,すなわちV2野→V4野→IT野などの細胞の反応特性などについての詳細は,あまりよくわかってないが,IT野では複雑な図形(顔などに特異的な図形)に反応する細胞が存在することが知られている.IT野では画像平面内で物体が並行移動しても,それに依存せずに反応する細胞が存在することが報告されており,更には物体のある程度の拡大・縮小に依存せず反応する細胞も存在することも報告されている.物体の奥行き方向の回転に関しては,最適な角度から見た画像から,徐々に物体を回転させた刺激画像を見せていくと細胞の反応も,これにしたがって弱くなるようなチューニングカーブが得られている. 本研究では,まず脳の視覚システムが構造的に,局所的な結合と,比較的均質な性質を持つものとし,SakaiとTanakaの支持するV1野のカスケードモデルが基本単位であることを仮定した.我々は,このカスケードモデルを多層化するとFukushimaの提案する“ネオコグニトロン"と同様の回路であることを示した.次に,我々はネオコグニトロンにいくつかの物体を様々な角度からみた画像を学習させ,提示した物体が,ある特定の物体(Targetと呼ぶ)かどうかを判別させる実験を行った.なおTarget以外の物体をDistractorと呼んでいる.実験は,1)学習させてない角度からみせた画像,2)物体を拡大・縮小した場合,3)物体を平行移動させた場合,4)Distractorを見せた場合に対する反応を測定することで行った.この結果,ネオコグニトロンの最終層の認識細胞の性質がIT野の持っている特性と非常に良く似た反応性を持つことを示した.
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