今年度は対話システムに予め与えておく一般的な文法の開発ならびにその開発のための支援環境作りを行なった。具体的には次の通りである。 1. 文法記述の枠組には素性構造単一化に基づくJPSGを用いた。同種の枠組にHPSGがあり、英語や独語などに関してはHPSGが盛んに用いられている。本研究で敢えてJPSGを採用したのは、JPSGは体系としてHPSGよりかなり単純であり、本研究の目的である、対話における文法適応の機構を考える際に扱いやすいと判断したからである。 2. 型付き素性構造の編集・閲覧を行なうためのエディタを作成した。このエディタは、構文解析の途中や解析結果で現れる複雑な素性構造をAVM表記でグラフィカルに表示する。さらに解析器に与えられる型付き素性構造の定義をそのまま参照し、ユーザにはこの定義と矛盾しないような編集しか許さないように素性の値をメニューで選ばせたり、解析器で利用している単一化機構をエディタから呼び出してユーザがマウスで選択した素性同士を単一化したりする機能を有する。 3. Chartアルゴリズムに基づく統語解析器において、文法のデバッグを支援するためのツールを作成した。JPSGやHPSGのような単一化に基づく文法体系では理論の中で処理の順序を仮定しないという特徴があるが、文法をデバッグする際には順序をかなり意識する必要があり、このことが文法を開発する際の困難の一つとなっている。そこで入力単語列の任意の部分列に対して、実行の順序を明示した、詳細なトレースを行なう文法デバッグ支援システムを構築した。 初期文法の開発が予想以上に困難であったため、初年度における研究計画でのもう一つの予定であるユーザの次発話予測モジュールに関しては残念ながらほとんど進展していないが、上記の文法開発のための支援システム作成を通して文法修正モジュールに関する見通しも得られた。
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