本研究は、人工知能における仮説推論の一形式であるアブダクションを使って、帰納的学習を効率的に実現する方法を提案することを目的としている。本年度は、本研究の基礎となるアブダクションを使った帰納的学習の理論的枠組を構築した。具体的な研究結果は以下の通り。 1. 知識ベースにおいて正の観測事象を説明するために、従来のアブダクションにおける仮説事実の生成メカニズムを拡張し、仮説としての一般規則を生成する手法を提案した。具体的には、アブダクションによって計算された仮説事実を使って、知識ベースの帰納的一般化を効率的に計算する方式を導入した。 2. 知識ベースが与えられた負の観測事象と矛盾する場合に、知識ベースを特殊化し修正する手法を導入した。具体的には、負の観測事象を満さない原因となる知識をアブダクションを使って抽出し、その知識を特殊化することで知識ベースの無矛盾性を回復する機能を導入した。 3. 上記の知識ベースの帰納的一般化と特殊化の手法を統合し、知識ベースに正負の観測事象が与えられたときに、正の観測事象に対する完全性と負の観測事象に対する無矛盾性を満たすような新しい知識ベースをアブダクティブに生成するための手法を提案した。 本研究で提案された手法は、知識ベースにおける一般規則のアブダクティブな学習を実現し、人工知能におけるアブダクションと帰納推論の融合に向けてのステップと位置付けられる。本研究の今後の課題としては、上記研究において明らかになった問題点の整理と計算手続きの実現、及び知識ベース更新への応用などが考えられる。
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