研究概要 |
脳における情報処理の仕組みを解明することを最終目的として,さまざまな方法で神経細胞のモデル化およびそれらを用いたシミュレーションが行われている.これらのシミュレーションは,脳が時々刻々不規則的に変化する外界の環境の影響を入カとして受けているにもかかわらず,決定論的な手法でなされることが多い. 雑音の付加された系においては状態量が確率的に決まるため,系の解析には状態量の定常確率分布などが用いられる.しかし,定常分布の形は必ずしも力学系の動的性質を反映せず力学系の分岐現象を扱うには適していない. 本研究では,確率的に変化する入力を仮定した系の振る舞いを解析する手法を開発することを目的として,雑音存在下での一次元写像の分岐現象を定義・解析する手法を提案した.具体例として,正規雑音が加法的に付加されたsine-circle写像を用い,この写像のFrobenuiu-Perron作用素の固有値解析の結果を例示しながら,Frobenuiu-Perron作用素の固有値を用いて確率的分岐点が定義できることを示した. 実際,サドルノード分岐は作用素の固有値が複素数から実数へ変化する点としてはっきりと観測された.また,この確率的分岐点は雑音のないときの分岐点からずれたが,そのずれと雑音の標準偏差との関係は線形であり,このグラフが原点を通ることは我々の確率的分岐点の定義の妥当性を伺わせる. 一方,周期倍分岐の場合,作用素の固有値は明らかな傾向を持って変化したが,サドルノード分岐の場合のようには.明確に分岐点を定義することはできなかった.しかし,分岐点を固有値の絶対値が極大になる点とすると,サドルノード分岐の場合と同様に,雑音の大きさと分岐点のずれとの関係が線形となることを示した.
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